それとも。
やっぱり、マドンナ・リリーの記憶が戻らない私なんかには興味がないということなのかもしれない。

彼が千年ずっと待っているのは、猛獣の姿から彼を救ってくれた可憐な一輪の百合の花。
マドンナ・リリー。
だから。
ただの女子高生の私になんて、興味がなくなったって、いうのかもしれない。


ベネチアで、彼の隣に居る時間は嫌いじゃなかった。
ううん。
イタリア語を流暢に使いこなし、持てる知識をフル活用して丁寧かつ簡潔に中世の絵を私に説明してくれるアナタの姿に、私はキュンってなったのに。

周りの人たちの羨望の視線を集め、それを気にすることもなく、今まで見た誰よりも優雅に気品溢れる態度で私をリードしてくれた。

そんな、アナタを。

……やっと、好きになったのに。




最低。
馬鹿。
鬼、悪魔。
エロ魔王。



お気に入りのクッションが、涙と鼻水でぐしょぐしょになってもまだ、私の涙は止まろうとはしなかった。