……馬鹿だ、って今さら思う。

どうして私は一人になりたいからって、屋上に来ちゃったのだろう。
鍵が開いていたことを不思議にも思わなくて。

にこり、と、笑っている颯太が、壊れて見える。

「ねぇ、もう。
渡辺さんも死んじゃったしさ。
僕と、付き合って」

「断りますって言いましたよね?」

搾り出した声は、震えていた。

「忘れちゃった。
僕さ、忘れっぽいんだ」

私は、さらに一歩、足を下げる。

とはいえ、屋上。
そんなにスペースが無尽蔵にあるわけじゃない。

いつかは、手すりにぶち当たる。

オカシイ……
ねぇ、オカシイよ?

心臓が、ばくばくなっている。
アラームサインは、まだ消えない。

変だ。
コイツ、絶対おかしい。

暗闇で見たマネキンみたいに。
人形(ひとがた)なのに、生気がなくて。どっか壊れている異様さを醸し出している。


「キョウっ
助けてっ」

私は、指輪に向かって叫ぶ。

「ねぇ、早乙女百合亜。
付き合って、くれるよね?」

「嫌です」

「そんなつれないこと、言わないでよ」

一歩ずつ、後ろに下がり続け。
ついには、手すりに背中がくっついた。
颯太の笑いは、昔テレビで見たオニババを思わせるほど、壮絶なものだった。

コイツ、人ジャナイ!

「どうすんの?
君も渡辺さんみたいに、ここから堕ちる?」