「まさか、そんなわけないわよ。
私はキョウにメロメロなんだから」

口からついて出た言葉はオーバーだけどあながち嘘ではない。
彼が普通のクラスメートだったりしたら、そろそろ恋に落ちているくらいには、キョウのことが気になっていた。

そりゃそうでしょう?

高校一年生で、突然ベネチアに連れて行ってくれた挙句、好きな服をお金に糸目もつけずに選んでくれて、美味しい料理をご馳走した上に、語学堪能に現地の人とかかわった上、目に付く美術品や建物全てに事細かな解説をつけてくれるような人が現れたら……。
しかも、それが極上の美形で、仕草一つからも目が離せないくらいの優雅さを伴った男だったら。

否、ベネチアでなくて東京でも結構。
絶対その手を放したくなくなるのは、私だけではないはず。


まぁ、残念ながらキョウの場合、人でないという時点でだいぶマイナスなんだけど。
それに、そもそも同級生じゃないし?
1000歳くらい年上……なんだっけ?

「ふぅん?」

興味なさげに私を見ると、仕方が無いなと、キョウはパチリと指を鳴らす。



さぁと風が吹いて、そこにジュノが現れた。

「マリアは追い出せた?」

「はい……。
本当に申し訳ありませんでした」

ジュノは、雨の日に公園に捨てられた子犬さながらに怯えた目で震えていた。
唇からは血の気が失われている。