彼は私を見て、やれやれ、と肩を竦めた。

「ここで消えてもいいけど、ニュースになるのは面倒だな。
おいで」

有無を言わせず私の手を引き、鐘楼から下りる。
人目のない路地に入り込み、パチリ、と、指を鳴らした。

あまりにも素早かったので、ついに私は聞きそびれてしまったの。

リリーって、誰?、と。




でたらめな青をぶちまけたような、綺麗な空から一転。
あっという間に私たちは漆黒の重さをべったりと肌に感じる魔界へと戻っていた。

あれほど素敵な教会や街並みを見た後では、豪奢なキョウの部屋も普通に見えてくるから恐ろしい。

「で、ジュノは?」

キョウは私の視線を受けて、テレビでしか見たことがないアメリカ人のようなオーバーリアクションで肩を竦めて見せた。
それから、思いついたようにきらりと、私の目の中を覗き込む。

「そんなに俺よりアイツのほうが気になるわけ?」

……なんでそうなるかなー。

私はぶるぶるぶると首を振り、自らそっと魅惑的な唇に、自分の唇を重ねる。

ようやく気づいたんだけど、この悪魔。
キスをすれば大人しくなるんだわ。

そう、芸をやった後餌を貰ってようやく大人しくなる水族館のアシカのように。