「ここであなたに聞くわ。あなたがそのイルカだったら、どうする?」

「……大好きな飼育員さんのがんばりが、ムダじゃないって証明するよ。
ショーで一番の人気になるくらい上手になってさ」
 
男の子はすぐにそうこたえました。

それを聞いた女の子はうれしそうな顔をしています。

「正解。さすがね。
大好きな飼育員さんが悪口を言われていることを知ったイルカは、それまでよりもたくさん、練習をがんばった。
ひとりでも特訓するようになった。
そして、あなたの言うとおりになったわ」

「イルカも、飼育員さんも、がんばったんだね。

でも、どうしてあのイルカはいま、この海にいるの?」


「……水族館がつぶれちゃったのよ」
 
そんな、と男の子は思わず声をもらしました。

「でも、あのイルカはいま、不幸せだと思う?」
 
男の子は、もう一度イルカをながめました。彼は、からだをしならせ、ゆうゆうと 泳いでいます。

「……少なくとも、飼育員さんがひどいことを言われていたときよりは幸せだと思う」

「そうね。じぶんの力で大好きな飼育員さんをよろこばせることができて、
彼はそれで満足しているのよ」
 
男の子は、イルカのことをかっこいいと思いました。



「あなたは、わたしにとって、あのイルカだったのよ」
 
女の子のひとことに、男の子は目を丸くしました。
イルカの話がはじまる前のことをすっかり忘れていたのです。「

でも、ぼくはそのイルカみたいなすごいやつじゃないし、やっぱりぼくはきみのことを思い出せないんだ。ぼくは結局、きみになにをしたの?」
 

男の子は、女の子のことを思い出せないのを申しわけなく思っているのでした。
 

でも、女の子は、

「まだひみつ」
 
と言っただけでした。
 
そのときまた、たくさんのあわが男の子のまわりをうずまいて、

男の子は夢からさめました。