大きなイルカがあらわれたので、男の子は驚きました。
 
そのイルカはきれいな海の中で、気持ちよさそうに泳いでいます。

「小さい水族館だったわ。そこではイルカショーがおこなわれていたの。
でも、あの イルカはショーが苦手だった。
ジャンプも、ボールをつかった芸も、うまくいかない。
だからね、いろんな飼育員から、あいつはだめ、役立たずだって言われていたの」
 
なんだか自分みたいだ、男の子は思いました。

「でも、ひとりの飼育員だけは、そのイルカのことを見捨てなかったわ。
きみなら ゼッタイできるよって言いながらイルカをはげまして、
たくさんの愛情をそそいだ。イルカも、彼女のことが大好きだった」
 
優しい飼育員さんだったんだね、と男の子は言いました。

「そうね。でも、まわりの飼育員は彼女のことをよく思わなかった。
彼らからしてみれば、彼女はいくらやってもうまくできないイルカにつきっきりで、意味のないことをしているようにしか見えてなかったの。

彼女のことをそのイルカと同じように〝役立たず〟だってかげで言うようになった。

あるときイルカは、その言葉を聞いてとても傷ついたの」
 
男の子は、手をにぎりしめました。

イルカのほうを向いて話していた女の子は、男の子にからだを向けました。