おひとつ、屋根の下ー従兄弟と私の同居生活ー



嬉しい、と喜ぶ悠里と、じゃあとりあえず先進もうぜーとやっと声を出した佐野。
その二人に囲まれて、愛想笑いをする達久。


その光景がどこか遠くにあるもののように見えて、私は自分がしてしまったことを客観的に考える。


……こんなふうに達久に気を遣わせて、やりたくないことをさせて。
傷付けたくないと思いながら、コンビニのときとは違い、今度は言葉じゃなく行動で傷つけている。テストの資料が欲しいからって達久を騙して、利用して、……私は酷いやつだ。


「ごめんなさい……」


この喧騒の中では、こんな小さな声は彼に届くはずもない。
けれどそれで良かった。
こんなふうに謝ったところで、達久は喜びもしないだろう。


「……ミコ姉、行くよ」


私を振り向いて、手招きする彼に黙って近付くと、達久は面倒くさそうにため息をついた。
前を歩いている佐野と悠里には聞こえないように、少し屈んで私の耳元で囁く。


「悠里先輩に俺との仲取り持ってとか言われたんだろ」


なんか含みがあると思ったらこれだったのか、と呆れたようにじろりと私を見下ろしてくる。
案の定、全てご存知だった従兄弟に、祈るように手を合わせて懇願する。


「……きょ、今日だけ我慢してくれたら、悠里から何言われてもこれからは断るよ」


悠里に頼まれたのは一回分のデートと達久についての情報収集だ。
これでとりあえずテスト分の借りは返したことになる。


「ならいいけど、……ほんと、ミコ姉ってば残酷」


「なにが残酷なの?」


「そんなに俺のことさっさと誰かとくっつけちゃいたいわけ?」