「い、従兄弟だから、ちょっと付き合ってもらったんだよねえ」


ダメだ、私だって棒読みだ!
誰かに助けを求めようと佐野を見上げるも、彼はただニコニコと鼻の下を伸ばして悠里の隣に佇んでいる。
佐野がどこまで知っているかはわからないが、黙っているところからして悠里に上手く丸め込まれたか、黙って立ってろと釘を刺されたのかもしれない。


どっちにしろ、このままではバレてしまうのも時間の問題で……


「なるほどね、……よく分かった」


絶対零度の冷たい声が、耳元で囁いた。
背筋がぞわりと凍るような声が恐ろしくて、達久を振り向けない。


けれどそんなことには気づかない悠里は、まるで名案を思い付いたとでもいうように手を叩いて提案する。


「そうだっ!美琴たちも二人なら、良かったら一緒に回ろうよ!」


「……そ、ソウダネー!」


元気な悠里の声に、私は首ふり人形のようにこくこくと頷く。
もう知ったこっちゃない、後はどうとでもなれ、だ。


「ねえ、いいかな、蓮見くん」


そう言って下から覗き込むように達久を見つめて、悠里は甘えた声を出す。
ようやっとそこで私は達久のほうを振り向いた。


達久は悠里から視線を外し、じっと私を見つめていた。
無表情の彼は、先ほど私と話して笑っていたはずなのに、……今は全く感情が見えなかった。


よく分かった、と達久は言っていた。
……きっともう、これが仕組まれたことで、私が今日このために彼を連れて来たのだと気付いている。


「ミコ姉がそうしたいなら、いいですよ」


ゆっくりと私から視線を外して、彼は自分の先輩である悠里と佐野を見つめて言った。


ーー『俺が行かなきゃミコ姉、困ることになるんじゃないの』


いまさら、あの言葉が蘇る。
いつも悠里の誘いを断っているという達久。でもいまイエスの返事をしたのは、他でもない私のためだと分かってしまう。


断ったら、私が困ると思ったんだ。