しかし次の瞬間、私の目は大きく開かれることになる。


僕が、忘れさせてあげるから。


早口でまくし立てるように言われた瞬間、彼の顔がぐっと近づいた。


何をされたか、考える時間すら無かった。
思考すら、止まった。


あまりに近くてぼやける彼の顔の輪郭、伏せられたまぶた。


唇には少しカサついた、生暖かい温もり。


理解するのを脳が拒否しているのが分かった。


次いで私が思い出したのは、先週の土曜の昼に彼と見た酷く安っぽいメロドラマだった。


…――ああ、確かに似たような流れだった。あちらの台詞は「俺が忘れさせてやるよ」だったけれど。


私はそのまま成すがままになっていた。


ただ、大切に育ててきた何かが音を立てて壊れていったのだけは分かった。