その週の週末。
つまり私がこの家に来てから最初の日曜日、約束通り父は私の様子を見にやってきた。


「美琴、迷惑かけてないか?」


開口一番にそんなことを言った父に、晴子さんが私の代わりに「大丈夫よー」と答えてくれる。


「ミコちゃん、学校帰りに夕飯の材料買ってきてくれたり、ご飯作るの手伝ってくれるから、むしろ最近家事が楽なのよ」


その言葉にふわっと気持ちが軽くなった。
昔は良く入り浸ってたけど、最近は晴子さんとも疎遠になっていた。けれどこうしてまた仲良くなれて、そんな風に評価してくれると、ここに居ていいんだと気持ちが楽になる。


「ならいいが……」


「お父さんこそ、向こうの会社でヘマしてないでしょうね?」


軽口を返すと、そこそこだ、とにやりと笑う。これは何か良いことがあったときの笑い方だ。上手くやれてるようで私も安心する。


仕事が上手く行っていることが、父の生きがいの一つになっていることは知っている。
特に今日は久しぶりにお母さんの夢を見たものだから、こうして父が幸せそうにしている姿を見れてホッとした。


お母さんが出て行ったのは今から8年前、私が9歳のとき。
……母は、男の人と出て行ったのだ。


あのときの父の憔悴しきった顔は忘れたくても忘れられない。
私を抱きしめながら、泣くことも忘れたように茫然と虚空を見やる父など、もう二度と見たくない。