「……お待たせ」


「うん、じゃ行こっか」


着替えて戻ってきた達久に一つ頷いて、今度こそ正面玄関まで歩いた。
まだ外は雨がしとしとと降り続いていて、早く梅雨があければいいのにと思った。


「……あー」


「なに?」


「傘忘れた」


外に出る手前でそんなことを言うもんだから、


「私あるから大丈夫」


そして今しがた持ってきた傘を広げた。


「ほら、入りな」


達久の身長に合わせて少し傘を持ち上げて、一緒に入るように促すも、達久は無言で私を見つめているだけだ。
どうしたというんだろう、こんなこと昔もよくやったというのに。


「……ミコ姉、それが仲良しごっこ?」


「は?」


しばらくの沈黙の後でようやっと言われた言葉がそれで、なんの話をしているのかわからなかった。
眼鏡の奥の双眸は、疑い深げな視線をこちらに投げかけてくる。理由が分からなくて首をかしげると、


「……昨日言ってたじゃん。『表面上は勝手に仲良くやってくつもりだ』って。いまの傘もだけど、買い出しにも一緒に行くって言うし、昨日まで俺のこと避けてた人とは思えないね」


「……」


「ミコ姉のその、平気で仲良いフリする神経、尊敬する」


「すごい嫌味だね」


「……嫌味でも言わなきゃやってらんない」


そう言ってやっと傘に入ってきた達久に苦笑する。


「……別に仲良しごっこしようと思って、一緒に買い出し行ったり傘入ったりしてるわけじゃ無いんだけどなあ…」


今は晴子さんたちが見ている状況でもないし、仲良いフリする意味なんてない。
なぜこんなことするのかと言われたら、そんなの決まってる。