「……荷物」


「ん?」


「一人で持たせちゃうけど、大丈夫?」


昔の面影が、ふっと過ぎる。
優しくて可愛い頃の、私の従兄弟。


ーー『ミコ姉、それ持つから』


いつかの、少し照れてぶっきらぼうに言われた声と横顔が蘇る。
だからだろうか。


「大丈夫だよ、ほんと心配性」


思わず、昔のように笑ってしまった。
けれど、昨日乱暴に扱われたことを思い出して慌てて口元を引き締めた。


あぶないあぶない。
こんな簡単に笑ってやるほど、ちょろくはないんだ私は。
傷つけられてのほほんと笑ってられるかっつー話だ。


ちらりと達久の顔を見ると、真顔でこちらを見ている。


「……な、なにさ」


「いや、少し優しくすると口元緩んじゃうんだなと思って」


「……」


「ちょろ……」


「ちょろくないから!!全然昨日のこととかも許してないからね!!!」


達久の言葉に被せる勢いで反論して、もう、とそっぽを向いた。


「じゃ、用事はそれだけだから、あと頼んだ」


「はいはい」


そうしてお互い振り返りもせずに別れた。
ドライな関係だ。前とは全然違う。


これでいいんだ、と自分に言い聞かせる。


だって私は、二度もあんなことをする“従兄弟”を許してはダメなんだから。


***


「……で、結局どんな関係なの!?」


「い、従兄弟……」


「従兄弟かよ!!!」


教室に帰ってきてから、めちゃくちゃキラキラした目で詰め寄ってきたクラスメイトたちにそう答えると、「つまんないー」とようやく追及の手を止めてくれた。


「ふうん、あれがねえ……」


それとは反対に後ろの席でニヤニヤと黒い笑みを浮かべる親友のことは、この際忘れることにした。