「ま、ちゃんと用事があって来たんだから、そんな邪険にしないでさ」


「……とりあえず場所変えよ」


ちらちらと私に刺さる視線は全て達久のあとに注がれるもの。
みんなこの男と話す私を値踏みしているのだ。


先ほどのクラスメイトに言われた、“めっちゃかっこいい”なんて陳腐な単語が、この従兄弟を指すものだとしても頭の中で上手く結びつかなかった。けれど、事実そうなのだろう。数多に私たちに注がれる好奇の目がそれを物語っている。


達久の肘をつかんで引っぱりながら、廊下の端っこの中等部と高等部をつなぐ渡り廊下まで歩く。
人が捌けてきた場所でやっと向き合って腕を離す。


「……用事って?」


「母さんから、夕飯の材料買っておいてって連絡きたんだけど、俺部活行きたいしミコ姉に頼もうと思って」


そう言って達久はスマホを操作して晴子さんからのメッセージを私に見せる。そこには材料がいくつか書かれていて、これくらいなら特に苦にもならない量だった。


「いいよ、それ転送しておいて。買って帰る」


「連絡先知らない」


言われて、ああ、だからわざわざ教室まで来たのかと納得した。勝手に連絡先を知っているもんだと思っていたけれど、中一の達久はたしかに携帯なんて持っていなかった。


「そか、達久、スマホ買ったの最近?」


「や、1年くらい前から」


「……そうだったんだ」


本当に最近の達久の様子なんて知らなかったな、と実感する。
連絡先を交換しあって、アドレスに彼の名前が入ったことを確認した。


『蓮見 達久』の文字が私の携帯に刻まれることなんてないと思っていた。