首元から下がったバスタオルのおかげでノーブラなのはバレないはずだけど、それでも年頃の女子としていかがなものなんだろう。というかこれからこういうことが日常茶飯事になっていくなんて、耐えられるんだろうか。


荷物をソファの傍に放り投げて、達久がこちらに歩いてくる。
慌ててお茶を冷蔵庫に詰め込んで彼の側から離れようとした。


「……んなに警戒しなくても、キスなんてしないけど」


傍を通るとき、小さな声でそんなことを彼は言う。


「……っ、べ、別にそういう意味で逃げたんじゃないっ」


一緒の空間に居たくないだけ、と暗に匂わせて言い切るも、ふうん、と気の無い返事をされる。
特に気にも留めてないようで、達久は冷蔵庫から夕飯の残りを取り出して慣れた手つきでレンジで温め始めた。


「ねえ、達久」


「なにミコ姉」


「……あんなことがあっても、表面上は、私勝手にあんたと仲良くやってくつもりだからね」


しっかりと目を見据えて宣言した。
そう、私は考えたのだ。いくらあんなことされたからといって、一緒に住んでいく事実は変わらない。だったら、もういっそのこと割り切ってしまった方が良いのではないか、と。……臭いものには蓋をして、図太く生きていくこともきっと必要だ。


すると一瞬キョトンとした後で、ふは、と吹き出したように達久は笑って


「そういうとこ、ほんと自己中。ご自由にどうぞ、俺はその時の気分で接するけどね。……でも、ミコ姉も、変わったよね」


そんなことを言うものだから、どこがさ、と売り言葉に買い言葉で喧嘩腰に尋ねる。


「性格悪くなった。前はもっと俺に優しかったのに」


「全く同じ台詞をお返ししますけど」


「ミコ姉が無視なんてするから歪んじゃったんじゃん」


「私は、あんたがキスなんてするから変わっちゃったんじゃん」


「お互いさまかよ」


「ほんとそれ」


昔に戻ったようにトントン進む会話に、なんだか調子が狂ってしまいそうになって、慌てて顔を背けた。