「蓮見」と書かれた表札と、かつて見慣れていた家を見上げて深呼吸する。



緊張していないといえば嘘になる。
小刻みに震える両手は、これから始まる生活への私の気持ちを物語っていた。



父がなんの躊躇も無くインターホンを押すと、懐かしい叔母の声がした。



今開けるわね、という弾んだ声のあとすぐに扉が開いた。



「兄さん、よく来たわね。それにミコちゃんも」



久し振りに会った晴子さんは嬉しそうに私たちを出迎えてくれた。



「晴子、久し振り。悪いな、こんなこと頼んで」



「なに言ってんの、こういうときはお互い様じゃない。さ、ふたりともとにかく入って。ミコちゃんの荷物も届いてたから上に運んで置いたわ」



「上……」



「そ、二階。ミコちゃんも知ってると思うけど一部屋あまってたじゃない?そこをミコちゃんの部屋にしたけど大丈夫だったかしら。ほら、達久の隣の部屋」



達久、という言葉にドクンと心臓が音を立てて跳ねた。



「た、達久の隣、なんだ」



「え?ええ、そうなんだけど……って、もしかして嫌だったかしら」



そういえばふたりともお年頃かしら、という晴子叔母さんの台詞を慌てて遮って否定する。



「あ、いいの!全然大丈夫だよ。……えと、あれ?そういえば今日達久は……」



なんてことない、と上手く笑えていただろうか。
そしてさりげなさを装って尋ねた達久の居場所は、あっけらかんと明かされる。



「達久なら二階にいるわよ」