「美琴、着いたよ。降りなさい」


ああ、これは刑の宣告に似てる。
私に課せられた罰は、気まずい空間にこれから高校卒業までの約2年間押し込められることだ。


じゃあ私が犯した罪は、達久をあれから二年、避けつづけて来たことだろうか。


……馬鹿らし。


父が車のドアを開けてくれたので、私はそこから意を決して降りた。


それに多分、達久だって私と同じくらい、いやそれ以上にこの環境を歓迎していないはずだった。


気まずさを作り出した張本人。
加害者のが被害者より、どうしていいか分からないだろう。


「荷物、あらかじめこの家に送ったのもあったけど、それにしてもこれだけで良かったのか」


「大丈夫。服と勉強道具さえあればなんとかなるから。家具はもうあっちの家の方に送ったんだっけ」


「ああ。あと、余った家具は知り合いの倉庫に預かってもらった。また何年かしたら帰ってくるからな。そしたらまた一緒に家を探そう」


「了解」


コツンとこぶしを合わせる。
これは昔からの父との約束の儀式だ。


「健闘を祈る」


「同じく。せっかく本社から直々にお願いされたんだから、良い結果残してきたまえよ」


にしし、と笑い返すと、父もニヤリと笑って鼻を掻いた。


私と父は仲が良い。
母がいなくなってからは、特にその絆は強固なものになっている。


どうか、
いつも幸せでいてほしい。


これは父の私への口癖で、娘を溺愛しているというよりは信じて見守っている、という方が近い。


それは私も同じだ。
だからこそ、父が大好きな仕事に打ち込めるなら、私だって力になりたい。


だから父の単身赴任は私が率先して薦めた。
父がそれを渋っていたのは、片親である私に対する負い目からだと知っていたから。