私はそれから米田さんを避け続けた。
ひどいと分かっていても合わせる顔もなかったからだ。

そんなある日
「中田さん...ちょっといいかな」
と米田さんに声をかけられた。

私は、涙が溢れ出そうになってその場から立ち去ろうとした。

しかし米田さんの大きな手が私の腕を掴む。
その力はあまりにも強くて振り払うことができなかった。
「どうして逃げるの...?」

「...ごめん...なさいっ、私っ、怖くて...」

「...」
米田さんは黙ってこっちを見ている。
その目は強く真っ直ぐだった。


「ちょっと来て...」
米田さんはその手を離すことなくあの部屋へと私を引っ張っていく。


部屋には誰もいなくて
米田さんと私、二人っきりだった。
(気まずい...)


「とりあえずこれでも食べて落ち着いて。」
そう言って差し出してきたのはいちご飴だった

「どうして...?」

「え...?」

「だって、いちご飴は“特別な存在”の人にしかあげないんでしょ?なんでそんないつも期待させるんですか...っ、頭をポンポンしたり、突然下の名前で呼んだり期待させる事ばっかりして、、」
涙が止まらなかった。

「そうか...もう知ってたんだねぇ(笑)」
その穏やかな笑顔にドキッとした。

そうしてこう続けた

「そうだよ。いちご飴は特別な存在の人にしかあげないんだ。それくらい好き。おじさんなのにいちご飴好きとかおかしいでしょ?(笑)子供かよってね(笑)
それさえもおかしいのに僕はどうやら高校生に恋をしたみたいだ...」

「え...?」

「凜ちゃん...僕は君に恋をしたんだよ。」

「で、でも...無理だって...」

「うん...無理なんだ...君と付き合うのは可能かもしれない。でもそこにあるのは年齢という大きな壁...僕は40歳で君は16歳、24も離れている
この状況で付き合うのは無理なんだよ...」

「で、でもっ、私は好きですよ...米田さんのこと...」

「僕も好きだよ。僕と君は“好きという気持ち”それだけでいいかもしれない。でもね、怖いのは周りなんだよ。このご時世こんな年齢差のカップルは援交だと決めつけられる。なんせ高校生とおじさんだし...それにカップルらしい事は出来ないんだよ...?」

「...」
確かにそうだ。否定出来ない。

「そして何より僕の方が確実に先に死ぬ。」

突きつけられたのは現実だった。
米田さんの方が確実に先に死ぬ。

しかし私は米田さんにこう告げた。
「確かにそうかもしれません。
私は米田さんの年齢に追いつくことも出来ないし、追い越すこともできません。でも...
それ以上離れていくことも無いです。
どんなに急いだってどんなにゆっくりだって差は変わらないです。だから...その差を埋めれるくらい密度濃く過ごしていけば十分じゃないでしょうか...?お互い好きじゃ足りないんでしょうか...私は、周りになんと言われようと覚悟は出来てます。それくらい好きなんです...好きになってしまったんです...」

「そうかぁ...凜ちゃんは大人だねぇ、、覚悟が無かったのはどうやら僕の方みたいだ。精神年齢は僕より年上なんじゃないかな...(笑)」

「か...からかわないで下さいっ...!」

「ははっ(笑)ごめんごめん。でも、凜ちゃん...いいの?僕なんかで...、僕と付き合うと君の...」
米田さんの言葉を遮るように私は言った。

「あ、もしかして僕と付き合うと君の未来を壊してしまうとか言いませんよね? 先に言っときますけど、そんな事一切ありませんからね。私は米田さんが年上じゃなくても絶対好きになってました。私の未来を壊すなんてそんな事ありませんむしろ潤してくれます!!!!好きな人と一緒にいれるなんて!幸せすぎます!!」


「さっきまであんな泣いてたのに...(笑)でもそこまで考えててくれたんだね。ありがとう...」

そう言うと米田さんは私を抱き寄せ力強く抱きしめた。
「え、ちょ、米田さん...?」
顔が赤くなる。

「好きだよ凜ちゃん...僕の彼女になってくれないかな...?」
耳元でそう言われた。

私の答えはもう決まっている。
「はい。よろこんで!」



この日私は大きな決断をした。