十和の腕に巻き付いた黒い蔓(ツル)。
逃げる事は出来ないのだと、
縛られて生きていくのだと、
そう言っているように思えてならない。
この絵を刻むその時、彼は何を思ったのだろう。
『彫るのって、痛い?』
『結構ね。 だから利き手じゃない方にしたんだよね』
左腕のタトゥーをトントンと指で突くと十和は笑った。
女の私から見ても整った綺麗な顔をしている。
こんな人がこんな所に何をしに来るのだ?
こうして雑談する以外に目的は無いのだろうか。
『アユはさぁ、反抗期ってあった?』
『え?』
『ほら、親とかにすんじゃん?』
反抗期、かぁ。
なんだか、それ所じゃなかった気がする。
食べるのに精一杯で、お母さんと喧嘩する暇さえなかった。
『このタトゥーはそんなもんかな』
光と影のように私と彼は違う存在だと思っていた。
私はこんなおかしな場所で過ごすしか術はなく。
十和は青空の下で笑う事が当たり前だと思っていた。
『何で反抗したの?』
だから耳を疑った。
『俺ね、私生児なの』
十和の口から出た「私生児」という単語に。
それに、わりと平気そうに話す姿にも……
『私生児って、いわゆるアレだよね……?』
何て言えばいいのだろう。
「愛人」「不倫」「望まれぬ子」
薄汚い言葉しか浮かばない。
『優しいねー、アユは』
戸惑いを隠せない私に、十和は笑顔を見せ、頭を撫でる。
不覚にも大きくて温かい手にホッとしてしまった。
『そんな気をつかわなくていいよ? 俺自身、人が思ってるより気にしてないんだよね。 つか、気にしてたらアユに言わないってば』
十和はそう言って笑うけど、
私は彼を直視出来なかった。
自分と似た境遇の人が傍にいる。
その事で妙な安堵感を抱いてしまったから……

