空色(全242話)


十和の腕に巻き付いた黒い蔓(ツル)。

逃げる事は出来ないのだと、
縛られて生きていくのだと、

そう言っているように思えてならない。

この絵を刻むその時、彼は何を思ったのだろう。

『彫るのって、痛い?』

『結構ね。 だから利き手じゃない方にしたんだよね』

左腕のタトゥーをトントンと指で突くと十和は笑った。

女の私から見ても整った綺麗な顔をしている。

こんな人がこんな所に何をしに来るのだ?
こうして雑談する以外に目的は無いのだろうか。

『アユはさぁ、反抗期ってあった?』

『え?』

『ほら、親とかにすんじゃん?』

反抗期、かぁ。
なんだか、それ所じゃなかった気がする。

食べるのに精一杯で、お母さんと喧嘩する暇さえなかった。

『このタトゥーはそんなもんかな』

光と影のように私と彼は違う存在だと思っていた。

私はこんなおかしな場所で過ごすしか術はなく。
十和は青空の下で笑う事が当たり前だと思っていた。

『何で反抗したの?』

だから耳を疑った。

『俺ね、私生児なの』

十和の口から出た「私生児」という単語に。
それに、わりと平気そうに話す姿にも……

『私生児って、いわゆるアレだよね……?』

何て言えばいいのだろう。
「愛人」「不倫」「望まれぬ子」
薄汚い言葉しか浮かばない。

『優しいねー、アユは』

戸惑いを隠せない私に、十和は笑顔を見せ、頭を撫でる。

不覚にも大きくて温かい手にホッとしてしまった。

『そんな気をつかわなくていいよ? 俺自身、人が思ってるより気にしてないんだよね。 つか、気にしてたらアユに言わないってば』

十和はそう言って笑うけど、
私は彼を直視出来なかった。

自分と似た境遇の人が傍にいる。
その事で妙な安堵感を抱いてしまったから……