『お疲れー』
待機室に戻った私に美香が声を掛ける。
だけどそれどころじゃなかった。
早く顔を洗って歯を磨きたかった。
早く袋井にされた事を無かった事にしたかった。
『アユ? 何それー?』
ロッカーから出したポーチを指差す美香。
『化粧品。 もう次の指名入ってるから行くね』
それだけ答え、私はプレイルームへと向かった。
プレイルームのシャワー室。
清掃が入ったばかりなのか、まだ消毒液の匂いがした。
蛇口を捻り、お湯を出す。
とりあえずポーチに入っていた歯ブラシで歯を磨き、顔を軽く洗った。
肌がキシキシする。
指の滑りがどうも悪い。
多分、顔に着いた精子のせいだろう。
肌の違和感もポーチ内の洗顔フォームで、ようやく消す事が出来た。
口も、もう生臭くない。
シャワー室を後にし、ミニソファーで簡単にメイクを直した。
さっき泣いたからか。
すこし目が赤い。
だけど、気付かれる程じゃない。
《コンコン》
全て仕度を終えた頃。
ノック音と共に藤原が顔を出した。
『さっきと連続だけど大丈夫かな?』
『あ、はい。 大丈夫』
『じゃあ通すね』
そう返事した藤原に代わって、背の高い男の人が入る。
十和だ……
『こんばんわ』
今日は少し若い格好。
いつもの黒っぽい服でなく、紫色のチェックのシャツでお出ましだ。
『なんかイメージ違う。 いつも黒っぽい服装なのに』
藤原の足音が遠退いた事を確認し、口を開く。
『そう? どっちも私服だよ?』
普段はそうでもないけど、笑うと目が細く目尻側が下がる。
そんな笑顔にホッとする事。
自分自身で、少しずつ気付いていた。

