空色(全242話)


いつからだろう。
大勢の人間の中から一瞬で「彼」を見つけられるようになったのは。

同じ格好。
同じ髪型だとしても、私はきっと迷わずに手を取れる。

そんな自信があった。



『じゃあ、またね』

夜になって、十和は私をアパートまで送ってくれた。

『今日はありがとう』

駐車場で少し会話し、車を降りる。

最初の頃も感じた、別れ際の違和感。
嬉しいわけでも悲しいわけでもない。

ただ体のどこかに小さな穴が開いたような、そんな違和感。

今になって知った。
それが「寂しい」という事なんだと。

私は名残惜しかったんだ。

十和とまだ一緒にいたかったんだ。

次はいつ会えるのかな。
お店に来るのかな。

もし来なかったら?

走り出した車の背中を見送りながら、頭の中で期待と不安が入り混じる。

苦しい。
肺が狭くなったような息苦しさ。

十和と別れる時は、大概「これ」に悩まされる。

こんな事は初めてで、どうしていいのか解らない。

十和に会わなければ自然と治るのか?
でも十和の顔を見ている間は、苦しくはない。

だったらずっと一緒にいれば大丈夫かも。
そんなの無理だけど。

十和にも私にもお互いの生活があるんだから。

でも、どうすればいいんだろう。
どうしたら息苦しさを止められる?

生きてる限り、ずっと続くの?
そんなの耐えられない。

ねぇ、十和。
十和は何でも知ってるでしょう?

空も海も山も人も。
だったら教えて。
私を苦しめる「これ」は、どうしたら消えるの?