空色(全242話)


「楽しみにしてた」
そう言った私に対し、十和は満面の笑みを見せて言った。

『ありがとう』

どうしてそう素直なのか。
こっちが恥ずかしくなるよ。

『別に、帰っても暇だし』

私は必死に、平静を装うしかできないのに。

『じゃあ、今日はずっと一緒にいる?』

……もしかしてわざとか?
私が戸惑ってるの知ってて言ってんの?

だとしたら相当、性格悪い。

『さっきから本当に冗談ばっかり』

とりあえず、さらっと流し、十和から目を反らす。

十和だって男だもの。
冗談混じりに誰にでも言ってるんだろう。

だから私が真面目に返したら、それこそ笑われる。

『アユ。 手ぇ出して』

と何の前触れもなく言われ、反射的に手を差し出してしまった。

『冗談じゃないよ? アユが寂しいなら、いつまでもいるよ』

空へ向けて開いた手の平に、ピンク色の貝殻が乗せられる。

この貝殻、

『可愛い…… ハート型だ』

少しいびつなハート型。
所々、ゴツゴツしてて、人工的に作られたのではないと証明していた。

『さっき拾ったんだ。 いつ見せようかタイミングはかってた』

悪戯に笑う十和。
この貝殻の意味を深く考えてしまうのは私だけ?

十和の気持ちを表してるんだと思ったのは私だけかな?

『もう一回言うけど。 俺、アユの客になったつもりないからね』

さっきと同じ台詞も、
心なしかさっきより、優しい声でゆっくりと話してくれる。

『俺の事、1人の男として見てよ』

それだけで、視界が涙で歪んだ。
涙が零れ落ちないよう、必死に瞬(マバタ)きを我慢する。

そんな私の額をコンと突くと十和は満面の笑みを見せた。

『ま、すぐにとは言わねーからさ!』

裏のない子供のような笑顔……
私には眩しすぎて直視できなかった。