「楽しみにしてた」
そう言った私に対し、十和は満面の笑みを見せて言った。
『ありがとう』
どうしてそう素直なのか。
こっちが恥ずかしくなるよ。
『別に、帰っても暇だし』
私は必死に、平静を装うしかできないのに。
『じゃあ、今日はずっと一緒にいる?』
……もしかしてわざとか?
私が戸惑ってるの知ってて言ってんの?
だとしたら相当、性格悪い。
『さっきから本当に冗談ばっかり』
とりあえず、さらっと流し、十和から目を反らす。
十和だって男だもの。
冗談混じりに誰にでも言ってるんだろう。
だから私が真面目に返したら、それこそ笑われる。
『アユ。 手ぇ出して』
と何の前触れもなく言われ、反射的に手を差し出してしまった。
『冗談じゃないよ? アユが寂しいなら、いつまでもいるよ』
空へ向けて開いた手の平に、ピンク色の貝殻が乗せられる。
この貝殻、
『可愛い…… ハート型だ』
少しいびつなハート型。
所々、ゴツゴツしてて、人工的に作られたのではないと証明していた。
『さっき拾ったんだ。 いつ見せようかタイミングはかってた』
悪戯に笑う十和。
この貝殻の意味を深く考えてしまうのは私だけ?
十和の気持ちを表してるんだと思ったのは私だけかな?
『もう一回言うけど。 俺、アユの客になったつもりないからね』
さっきと同じ台詞も、
心なしかさっきより、優しい声でゆっくりと話してくれる。
『俺の事、1人の男として見てよ』
それだけで、視界が涙で歪んだ。
涙が零れ落ちないよう、必死に瞬(マバタ)きを我慢する。
そんな私の額をコンと突くと十和は満面の笑みを見せた。
『ま、すぐにとは言わねーからさ!』
裏のない子供のような笑顔……
私には眩しすぎて直視できなかった。

