空色(全242話)


『仕事、どう? 上手くいってる?』

と突然、波以外の音が耳に入った。
目を開ければ、そこに十和の顔。

でも少し寂しそうに笑ってた。

『普通だよ』

そんな顔をされる意味がわからなくて、とりあえず答える。

『辞めちゃえよ』

まさか、そんなふうに言われるなんて、思ってもみなかった。

同時に渡されたコーヒーも受け取れず、十和の元へ戻っていく。

『あんな店辞めてさ、普通にバイトでもすればいいじゃん』

辞める……?
辞められないから働いてるのに。

辞められるなら、とっくに辞めてるのに。

『何で辞められないの?』

まるで私の頭の中を覗き見たように続ける十和。

何で辞められないかって?

それは、

『お店の、決まりだから』

掟のため?
……ううん、きっと違う。

『何それ。 辞めるのも、辞めないのも、個人の自由だろ?』

掟なんて関係ない。
私はただ、怖いんだ。

『いいんだよ。 十和は気にしなくたって』

せっかく手に入れた客引きが逃げたなら、藤原達は血眼(チマナコ)になって捜すだろう。

そして私も早苗のように……

『気にするよ。 俺が、嫌なんだ』

それが、怖くて堪らないの。