『仕事、どう? 上手くいってる?』
と突然、波以外の音が耳に入った。
目を開ければ、そこに十和の顔。
でも少し寂しそうに笑ってた。
『普通だよ』
そんな顔をされる意味がわからなくて、とりあえず答える。
『辞めちゃえよ』
まさか、そんなふうに言われるなんて、思ってもみなかった。
同時に渡されたコーヒーも受け取れず、十和の元へ戻っていく。
『あんな店辞めてさ、普通にバイトでもすればいいじゃん』
辞める……?
辞められないから働いてるのに。
辞められるなら、とっくに辞めてるのに。
『何で辞められないの?』
まるで私の頭の中を覗き見たように続ける十和。
何で辞められないかって?
それは、
『お店の、決まりだから』
掟のため?
……ううん、きっと違う。
『何それ。 辞めるのも、辞めないのも、個人の自由だろ?』
掟なんて関係ない。
私はただ、怖いんだ。
『いいんだよ。 十和は気にしなくたって』
せっかく手に入れた客引きが逃げたなら、藤原達は血眼(チマナコ)になって捜すだろう。
そして私も早苗のように……
『気にするよ。 俺が、嫌なんだ』
それが、怖くて堪らないの。

