空色(全242話)


十和の乗ってきた黒い乗用車。
十和はそれを素通りすると、駐車場を出て歩き出した。

『歩いていくの?』

少し小走りになりながら、尋ねる。

『電車だよ?』

『電車? 車は?』

「車ですぐだよ」と、前にそう言ったのは十和だ。
だから車で行く事を期待して……

期待?
いや、別に期待したわけじゃないけど。

『電車の方がアユは安心だろ? だから前回も電車にしたんだけど』

少し照れ臭そうに笑う十和に、こっちは思わず苦笑。


私を襲おうなんて、思ってもないくせに。

『私、今日はドライブもしたい』

十和に背中を向け、来た道を戻る。

本当は男と2人で車に乗るの不安だよ。
幸成みたいな事になったら嫌だし。

でも、なぁーんか特別なんだよね、十和は。

『十和は安全なんでしょう?』

運転も人間も。
十和は信頼していいんでしょう?

『ど、努力します』

ちょっとプレッシャーかけちゃったかな?
と、困ったような十和の表情に「意地悪だった」と反省し、笑顔を見せた。



『どっかでご飯食べていく? それとも買って外で食べる?』

車に乗り込むと同時、
十和は、私の顔を覗き込んで言った。

『アユはどっちがいい?』

前々から綺麗な顔をしてると思っていたけど、明るい所で見たその容姿は、格別……

『十和は、両親のどっちに似てるの?』

『って、俺の話聞いてた?』

あ、そういえば昼食の話してたっけ。
どこかで食べるか、買っていくか。

『天気いいし、外で食べよっか』

十和は仕切り直すようにそう言って私の髪をクシャクシャっと撫でた。

ってか十和だって私の質問、聞いてないし。

『何、その不満げな顔は』

『別に、十和に関係ない』

関係ない、事はない。
私、本当に可愛くない。

もう私の事はいいから、早く出発してほしいよ。

『母親似だよ。 俺は』

え?
何を急に。

もしかしてさっきの質問の答え?

『何? それが知りたかったんじゃないの?』

優しく笑う十和。
条件反射のように、熱くなる私の顔。

そうだよ、それが知りたかった。
私、十和をもっと知りたいんだ。