「今日学校どうだった?」
「ん~?普通だったよ。直也(ナオヤ)先生が早く戻ってこーいって言ってた。」
「そう。」

直也先生は春が大好きな家庭科の先生で、俺達の担任教師だ。
たまに見舞いに来てくれるらしいが、忙しくてすぐに帰ってしまう。でも、先生が来た日はすぐにわかる。春が何か可愛いものを身に付けていたり、色つきリップを使った跡があるから。

「今日はせんせー、来てないんだな。」

俺はからかってやりたくなって、にやっと笑う。

「えっ?!なんでわかったの?」

すぐ真っ赤になる顔が分かりやすい。

「リボンとかリップが机にでてないから」

あ、そっか。と、間の抜けた表情を向ける春に笑ってしまう。
そんな風にくだらない話をしていると、あっという間に帰らなきゃいけない時間になった。

「春、俺そろそろ帰んなきゃだ。」

「そっか。来てくれてありがと。おやすみ。」

「またな。おやすみ。」

―ガラガラッ

顔が蒼白くなってた。手も冷たかった。
また、入院長くなんのかなぁなんて考えながら歩いていると、

「あらぁ、翔くんじゃない。またお見舞いに来てたの?」

前から歩いてきた看護師に声を掛けられた。

「晃(アキラ)さん、お久しぶりです。今、帰るとこです。」

晃さんは、春の担当の看護師で、オネェ口調が特徴的だ。

「そうなの。アタシは今からハルちゃんの点滴やりに行くとこよ。じゃ、またね、翔くん。」

晃さんは朗らかに笑って病室に入ってった。