「あっ!」

ふと視界に入った時計を見てあることに気がついてしまった。

「やばい。みんな待たせちゃってる」

さすがにもうお賽銭は終わっているはずだ。


「ごめんなさい。
私、戻らなきゃ」

またあとでLINEする、と言って彼に背中を向けたとき、右の手首を掴まれた。

振り返ってみたその次の瞬間。

前髪を持ち上げられ、
ほんのひととき、唇がおでこに触れた。

全身が熱くなる。

「それじゃあ、またね」

ひらひらと手を振る梁太郎さんにちっちゃく手を振り返すと、私は逃げるようにその場を去った。

心臓がばくばく煩くて、おでこは燃えるように熱くて。
今は出会えた幸せで十分で。
前世のことはほとんど覚えてないけれど、それでも大丈夫。
そんな気がするんだ。


自己紹介から始まった不思議な二回目の人生を、私はこれから歩いていく。



永遠に吹いている、恋という風とともに–––。


『完』