小さな村の大きな話



【りんside】


コンコン


「はーい」


「調子どう??」


「うん、大丈夫!!」


「よかったよかった」



樹ちゃんの手が頭にぽふっと乗っかる。
…なんか、落ち着く。
大和くんとは違う、お母さんに撫でられてるような安心感。
そのまま後頭部を持って引き寄せられる。



「わわっ、どうしたの」



樹ちゃんの胸にすっぽりと収まる。



「ごめんね。手術の話、聞いちゃったの」


「………」


「私、りんには元気でいて欲しいって思ってる。
今年は厳しくても来年の夏休みには一緒に遊びに行きたい。夏休みだけじゃない、春休みも冬休みも」


「……私は………」



言葉に詰まる…。
何かを伝えたくて…でも言いたくなくて。
どう伝えればいいかわからない。



「教えて欲しいの」


「言ったって…樹ちゃんは絶対わかんないよ。
必ず成功する保証なんてないし、成功したって完治するわけじゃないんだよ??」


「一応ここに来る前に錦のところにも寄って聞いてきたの。
難しい手術じゃないし、今までこの手術は何回かやってきたけど一度も失敗したことはない。って
やるとしたら壱と錦、二人で入ることになると思うって。
壱と錦、二人いて失敗なんてありえないでしょ??
信用、出来ない??」


「信用してないわけじゃないよ、でも嫌だよ…」


「何が嫌なの??」



私は、何が嫌なんだろう…。
わからないけど……漠然とした不安と焦り……。
伝わらない。ううん、伝えられない。
言葉にするには難しすぎるよ…。




「跡…残る。
大和くんだって胸に傷のある女よりも…」



……なんだろう、これは……。
自分で言ってて自分で傷ついた…。



「傷が何??なんで傷があると駄目なの??」


「きれいじゃ、ないでしょ??」


「汚いってこと??」


「……それは………。」


「……あぁ、なるほど。
今、それっぽい言い訳探してるでしょ…??
りんはわかって欲しいんだよ。
でも、自分で伝えられないんでしょ??そりゃそうだ。自分の気持ち、想いを伝えるのは楽なことじゃない。その労力を負わないくせに察してほしい、あわよくば助けてほしい。とか思ってる」



ブチッ
図星だ。言い当てられると大きくなってた不安が弾けるみたいに溢れてくる。
どうしようもない…行き場のない気持ちがどろどろした言葉になって出てくるんだ。



「樹ちゃんに何がわかるの!!何も知らないくせに偉そうなこと言わないでよ!!
ずっと元気で、明るい友達もいて、優しい家族に恵まれて……樹ちゃんにはわからないでしょ!!
みんな出来るのに自分にだけ出来ない辛さも!!1人ベットの上で過ごす寂しさも!!死に怯える発作の苦しさも!!」


「何も知らない??それはりんでしょ??
私の何を知ってるの!?言ってみなさいよ!!
ずっと元気??明るい友達??優しい家族??
馬鹿じゃないの!?!?」



……そうだ。何も知らないのは私の方。
でも…でもっ!!自分でもわからないけど止められないの!!



「……樹ちゃんひどいよね。
私、知ろうとしたし、わかろうとしたよ!!
でも、触れようとすると拒絶したじゃん!!
樹ちゃんこそ、伝えられないくせに察してほしいとか思ってるんじゃないの??
……ほんと、最低。
出てって……ここから出て行って!!!」



ばぁぁぁん!!!



樹ちゃん、泣いてた………。



「私…何してるんだろう。
こんなの、ひどい八つ当たりだよ…」