【錦side】
少しだけ時を遡った305号室。
「遅い!!」
急いで病室に向かうと黎華が腕を組んで立っていた。
「悪かった。こいつ、いつからこんなだ??」
「私が来たときには既に発作起こしてた。意識もなかった」
「まじかよ。何分経ってんだ??これ。
視歩、点滴頼んだ」
一緒に来た視歩に指示を飛ばす。
「すぐ取ってくる」
「あー、モニターも頼む」
「了解」
視歩が出ていったのを確認してから
ボタンを外して音を聞く。
「…雑音だらけ。脈も飛びがち……」
「大丈夫なんでしょうね??」
「心配してるのか??」
「咲座家次期当主としてね」
「可愛げねぇな。大丈夫だ。回復に時間がかかるだろうがすぐに死んだりしない」
「…今日は帰る」
「待て、大したことじゃないが耳に入れておきたい事がある」
ガラッ
「持ってきたよ」
「俺はモニターやるから点滴頼む」
「はーい。なんか今日は刺してばっかりだな…」
「あとで日報書かせてやるから」
「……喜んで刺します」
しばらく経つと随分落ち着きを取り戻してきた。
「ふぅー、視歩。もう戻っていいぞ」
視歩が出ていってから廊下に誰もいないのを確認して話し始める。
「同僚にバレたかもしれない」
「は??」
「看護師が『305の患者さんからナースコールです』って言ったんだ。
多分聞こえてた」
「……だから、あれほど徹底しろって……」
プルプルと拳を震わせて…これは…
怒ってる……。絶対怒ってる!!
「用心するに越したことはないわ、移動させましょう。
で、それっぽい名前つけて名札も作りましょう。ここでは別人として生活してもらう」
「わかった。そっちではどうなんだ??」
「目撃者もいたかもしれないけど……今のところ騒ぎになったりもしてないし大丈夫でしょ。
確実に知ってしまった教師は口封じも兼ねて村の外に飛ばした」
「…サラッと怖い事を言うな……」
「当然の報いよ。錦だって怒ってるくせに」
「怒ってるが俺はそこまでしない」
黎華は明らかに不機嫌そうな顔をすると振り返り部屋の外へと歩きだす。
「さて、さっさと移動させるわよ。こういうのは早い方がいい」
