そう意気込んでスーパーまで来たものの……



「何を作ればいいんだ…??」


「…壱原さん??」



振り向いた先にいたのは檜山さんだ。
と言っても結構な距離感。



「あ、えっと…どうも」



一歩近づくと檜山さんは一歩後ろに下がった。
当たり前だけどなんか傷つくな…
先に傷つけたのは僕だから全面的に僕が悪いんだけど…。



「なにしてるんです??」


「えっと…夕食の買い出しを…」


「りんは??」


「家で寝てる」


「具合、悪いの??」


「良くはないかな…」


「…そう」



そう言って檜山さんは僕の持つかごの中に肉と魚と卵、それに納豆を突っ込んだ。



「もたもたしないで、さっさと会計」


「え、あ、はい!!」



会計を済ませると外で檜山さんが待ってた。
で、微妙な距離感のまま無言で家まで帰った。



「10分経ったらお邪魔するからよろしく」


「え」


「まずい??」


「いや、別に」





部屋に入って10分後、玄関の扉を軽く叩く音が聞こえた。



「インターフォン押すと、りん起きちゃうかと思って」


「ありがとう、気を使ってくれて」


「いや、押しかけてんのはあたしだし」



……なんか、大量の野菜を持ってる……。



「…野菜……??」


「村のじいさんばあさんがくれるのよ。
台所、借りるよ」


「何か作ってくれるの??」


「りんが前に、壱原さんは家事が絶望的って言ってたから」


「いや、そこまでひどくはないと思うけど…」


「一人で買い物すらろくにできなかった人のセリフとは思えませんね」


「うっ…」



檜山さんは手際よく料理を進めていく。



「…慣れてるんだね」


「こんなのに時間かけてたら食事だけで日が暮れるわ。
1日3回飯食うんだから」


「…ごもっともです…。
…なんか、檜山さんって全然印象が違うね」


「え??」


「思ったよりも面倒見がいいし」


「よく言われるけど、面倒見る人間は選んでるつもりだよ。
今だって壱原さんの面倒を見ているわけじゃない。りんの面倒見てるの」


「…うん」



檜山さん、よく見ると塩や砂糖は0.1グラム単位で計って入れてる……。



「随分細く計るんだね…。
まるで理科の実験みたい」


「りん、心臓悪いんでしょう??
濃い味付けの物は食べさせられないから」


「それ、りんちゃんから聞いたの??」



りんちゃんが自分の病気のこと、ここまで詳しく教えるなんて珍しい…



「…母が……りんと同じで…その、心臓が…」


「…そうなんだ。あ、だからあの時…」


「あの時??」


「りんちゃんを病院まで連れてきてくれたとき。
一発で心臓って気がついたし、チアノーゼも知ってた。
普通なら慌てふためいて大変なのに…」


「……そう、だね」



グツグツと音を立てている鍋の火を消して器に盛っていく。



「はい、できた。
りんによろしく言っておいてください」


「…食べていかないの??」


「しばらくしたら兄が帰ってくるから。
家でまた作るの面倒だし、ここで食べずに少し持って帰リます」


「…わかった。色々とありがとう」


「いえ…」



さて、りんちゃんの事起こしてくるか。