彼氏に浮気され、その女とも鉢合わせして傷ついているくせに、素直に感情を表現しない唯。

送るタクシーに乗っている間中、腹立たしかった。

泣けよ…

本当は悲しいんだろう⁈

悔しいんだろう⁈

感情の読めない表情で、俺とは反対の景色を眺めている女の顔が涙でぐしゃぐしゃになるまで泣かせてやりたかった。

きっと、1人になれば大泣きするんだろう…が、俺は
唯を1人きりで泣かせるわけにはいかないんだ。

だから唯の家の前で、一緒にタクシーを降りた。

人を気遣う余裕もないくせに、無理して笑い俺の帰りを心配する唯を見ていられなくて

「そんな辛そうに笑うなよ」

彼女をそっと抱きしめていた。

突然の事に唯の体は強張っていたが、彼女の泣くスイッチを押すことに成功したらしい。

俺のコートにしがみついて大泣きする唯。

やっと、泣けてよかったな…

1人で耐えられなかっただろう?

唯の口から、苦しそうに悲しみの声がして

「………あんな奴の為に泣くな」

彼女をぎゅっと抱きしめていた。

あいつなんかの為に泣くのは今日が最後だ。

だから、唯…

今は俺の胸を貸すから好きなだけ泣けばいい…

泣いて、少しは冷静になれたのか俺のコートを汚した事を気にしだす。