ある日の夜、俺の店『S』に慧が遊びに来ていた。

唯とは疎遠になっていたが、慧とは男同士ということもあり連絡は取り合っていた。

この店をオープンさせてから、慧は時たま、こうして顔を出してくれるのようになったのはうれしいが、頼んでもいないのに勝手に唯の近状報告を独り言のように話ししていく慧に、時たま苛立ち、その度にタバコの本数が増えていった気がする。

最初に来た時は、唯に彼氏がいると報告し、俺が動揺しているのを面白がっていた。

いつの頃からかはわからないが、俺の気持ちは慧にバレていたらしい。

2度目に来た時は、今日の唯は彼氏とデートでお泊まりらしいとか…

彼氏がいる時点で、そういう関係なのはわかっていたが面白くない。

その後、来店する慧が唯について話す内容は耳を塞ぎたくなるような事ばかりで、唯の幸せを願うふりをして心に蓋をし聞き流していた。


そして、何度めかに来た時、彼氏の仕事が忙しくてなかなか会えなくなったと唯がぼやきだしたとの報告。

かわいそうにとつぶやきながら、心では、このまま別れてしまえばいいのにと願う自分がいて、唯を諦められない気持ちに気がついてしまった。