唯をこの腕に抱いた夜を、なかった事にするわけにはいかない俺は、翌日から含みを持たせて唯の心を揺さぶり続けた。

頬を染め、反応する唯はとても可愛くてたまらない。

恋人同士で、こんな反応を見せられたら抱きしめてキスして押し倒すのに、唯と俺の関係は幼馴染から1人の男に昇格したに過ぎない。

まだ、彼氏の立場に立つ男がいるのだ。

あの夜を境に俺たちの関係も変わってきているのに、後、一歩踏み出せないのは唯とあの男が別れていないせいだ。

なかなか恋人同士になれない焦ったさから焦りを感じる。それでも、唯の前で平静を装うのは、もう彼女の心にあの男はいないとわかっているからで…

でも、まだ別れを切り出せない唯。

それは彼女の優しさなのだろうか?

もしあの男がよりを戻そうと涙を流してすがったら、唯はどうするのだろう?

あの男を裏切った罪悪から、俺との関係をなかった事にするかもしれない。

そんな不安が頭の中をグルグル回り、唯とあの男が2人きりになる隙を作らないと決めた俺は、オープン前で忙しくても必ず唯を車で送り届ける事にした。

車中、唯が警戒しているのが鞄を抱きしめている様子から伺える。