新ちゃんのお店のオープン当日の朝

いつもより少しだけ早く出勤してみると、既に美鈴さんは厨房で仕事を始めていた。

「おはようございます」

「おはよう‥今日から隣と掛け持ちで大変だけどお願いね」

「はい、大丈夫です。頑張ります」

小さくガッツポーズをしてから着替えを済ませ、いつもの作業に取り掛かるその前に隣を覗くと、眼鏡をかけた新ちゃんは、カウンターの中で難しい顔をしていた。

声をかけるのを躊躇っていると、私に気がついた新ちゃんが大きな声を出しながら手招きして呼ぶ。

「ゆい、ちょっときて」

美鈴さんが、クスッと笑う。

大きな声を出さなくても聞こえる距離に、美鈴さんは笑ったのだろうか?

首を傾げながら

「おはよう…なに?」

隣へ向かい、カウンター越しに新ちゃんと向かい合うと、眼鏡を外しながらスッと伸びてきた手に後頭部を押さえられた瞬間、唇に温かい温もりが触れ離れていく。

キスされたんだとわかった時には、目の前にいる男はにこやかに笑って朝の挨拶をする。

「おはよう…」

すぐ隣の壁の向こうには美鈴さんがいるにも関わらず、朝からいけしゃあしゃあとキスしてきて、見られていたらどうするのよと言う気持ちが先走る。