「申し訳ありません」
陶さんが去った後、民部君が申し訳なさそうに謝ってきた。
「え?」
「陶殿のお言葉です。あのようなことを蕾様に言うなど」
「大丈夫だよ。それに民部君が謝ることじゃないもの」
言われたことにはムカついたけど民部君のせいじゃない。
むしろ言い返してくれて感謝している。
「そうですか」
民部君はほっとしたように体の力を抜いた。
そんな緊張するような人だなんて。
「ねぇ民部君。さっきの人って……」
「御屋形様の重臣の一人。陶晴賢(すえ はるたか)殿です」
やっぱりあの人があの陶さん……
想像していた人とは随分違う。
もっと悪そうな人かと思ったけど見た目だけだとカッコいいおじ様という感じだった。
でも表情や言動は何を考えているのか全く分からず、言い様のない恐怖感を感じる。
それに一瞬だけだったけど、殿のことを話すときにどこか見下したような目をしていた。
民部君や小夜ちゃんが向ける『当主』として見る目とは全く別のもの。
自分の方が上だというような目だった。
「蕾様。申し訳ないのですが客間にお茶を持ってきて頂けないでしょうか」
「お茶?いいけど」
「陶殿もいらっしゃいますので居づらいとは思いますがよろしくお願いします」
陶さんの名前を聞いて断りたくなったが、すでに民部君の姿はなく。
断る前に逃げたな。
はぁと息を吐く。
また陶さんに会わなきゃいけないのは憂鬱だけど殿に会えると思えば何とかなりそうだ。
もう一度ため息をついて私も屋敷の中に入った。