「何で……」
「昨日結うものがないと言っていただろう? たまたま町へ行ったときに売っていたのだ」
彼を見るとそっぽを向いている。
でもその横顔が少し赤い。
たまたまなんて嘘。
昨日の話で私の為に買ってきてくれたんだ。
「そんなに高価な物ではないし、ライが気に入らぬというのなら捨ててもいい」
気に入らないなんて……
「そんなことをするわけないじゃない」
高価な物なんていらない。
私にとっては例え紙1枚だとしても彼がくれた物ならどんなものでも宝物になるんだから。
「嬉しい。ありがとう」
彼が私の為にしてくれたことが嬉しい。
私の本当の名前を覚えていてくれたことが嬉しい。
「大切にする」
笑顔でそう言うと、殿も嬉しそうに笑ってくれた。
この上なく幸せな、そんな時間だった。