「おぉー、いい眺めだな」


本来行くはずだった仏殿を眺めながら、私たちはお墓の中を歩いていた。


前で楽しそうに歩いている秀。
対して私は誰かが見ているような気がして、変な汗をかいていた。

せっかく秀と二人きりになれたのに全く楽しむ余裕がない。


「おっ、看板見っけ。早く来いよ村上」

「ちょっと待ってよー……」


肩で息をしながらやっと秀の元に辿り着く。

息を整えて前を見るとそこには黒ずんだ木の看板が立っていた。

書かれているのは大内義長について。
彼はこの功山寺で亡くなったらしい。

二人で黙って読んでいると、今まで聞いたことも見たこともない名前があった。


「ねぇ、陶晴賢(すえ はるたか)って誰?」


口に出してしまってから、しまったと後悔した。
秀を見てみると驚いた顔をしている。


「あれ、お前知らないの?」



ウソっ、もしかしてメチャクチャ有名な人だったとか!?



「う、うん」

「陶 晴賢っていうのは義長の家臣だった人。影で義長を操ってたらしいよ」

「へぇ、そうなんだ」

「まぁこれ古先の受け売りだけどな」

「えぇぇ!?」


なるほど、だから秀は驚いてたのか。
うちのクラスでは他のクラスよりも倍ぐらい古川先生の話聞いてるもんね。


「そういえばお前古先の話ほとんど寝てるもんな」

「うっ、良くご存じで……」


恥ずかしいよ……
こんなことならちゃんと古川先生の話聞いとけばよかったな。




「お、あれが義長の墓か」


心の中で後悔していると、秀が看板の後ろを覗き込んでいた。

私も見てみるとそこには結構広いところに沢山のお墓が並んでいた。


「行こうぜ」


秀がそちらに向かおうとする。