丁度林を抜けた所で後ろから腕を捕まれた。
その冷たい手は後ろを見なくても誰なのか分かる。
「ライ……」
振り返ると殿が息を切らせながら私を見つめている。
肩には先ほど百合さんが渡した着物をかけていた。
それを見てまたどす黒い感情が沸き上がってきた。
「何故あんなところに隠れていたんだ」
「居たら不味いことでもあったの?」
刺々しく答えると、殿は少し眉を潜めた。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味よ。ごめんなさいね。お二人の邪魔をしてしまって」
掴んでいる手が少し強くなった。
彼の顔はイライラとした表情になっている。
「意味が分からん。百合のことを言っているのか?」
『百合』
彼は百合さんの名前を覚えているのか。
しかもちゃんと名前で呼んでいる。
私は1回も蕾とも桜とも呼ばれたこといないのに……
