桜ノ蕾



「もし良ければご一緒に見に行きませんか?」



冷や汗が吹き出す。
まさか百合さんが昨日の約束と同じことを言うなんて。




「どうでしょうか?」



殿は答えず黙ったまま。
百合さんが首を傾げて殿を覗き込む。

私も彼の返答を待った。



「まぁ時間があればな」



そう殿は言葉を濁して答えた。

それに百合さんは不満だったらしく、まだ殿に言い寄っている。





でも私にはその会話が全く耳に入ってこなかった。




どうしてはっきりと断らないの?


そればかりが頭に浮かぶ。



この場に居たくなくて私はゆっくりと足を後ろに引こうとした。
すると、そこに細い枝があって、ポキッと音をたてて折れた。



「誰?!」



百合さんと殿がこちらを見た。
殿は目を見開いている。
その顔は焦っているように私には見えた。



百合さんと居るとこを見られたから?






私は二人から逃げるように駆け出した。