そこに居たのは殿の隣に立つ百合さんだった。
何で百合さんがこんなところに?
ここには誰も来ないんじゃなかったの?
「何をお読みになっているのですか」
百合さんは自然な動きで殿に近づいて行く。
彼はそれを止めることはなかった。
「最近少し肌寒くなっていますから外に居るときはせめて何か羽織りにならないと」
「あ、あぁ」
百合さんは自分が羽織っていた着物を殿にかけた。
その時、彼女の指が少し殿に触れる。
触らないで!!!
内側から沸々とした怒りが沸き上がる。
今にも飛び出しそうになった体を何とか止めた。
何考えてるの?
ただ百合さんがあいつのことを心配してるだけじゃない。
そうだと思おうとするけど、ドロドロした感情が止めどなく沸き上がる。
「そういえばこの近くにイチョウの木がありましたね」
その言葉にピクリと肩が揺れる。
イチョウってあの木のこと?
「秋にはさぞ美しいでしょうね」
「そうだな」
嫌な予感がする。
だってちらりと見えた百合さんの目が女の人の目だった。