そんな風に考えながら彼を見つめていると、顔を上げた殿と目があった。


「とても美しい字だな」


そう言い、ニッコリと笑った。






ドキッ






心臓があり得ないくらい跳ねた。


さっきもあの男の人にドキッとしたけどこれはそれとは全く違う。
文字の事を誉めているのに何故か自分に言われているように感じた。



何でこんな風におもうの?
これじゃまるで私がこいつを……





「そ、そうだイチョウ! イチョウの木を見たの!!」


あらぬこと考えそうになり、私は思考を止めるために叫んだ。


何考えてんだ私!
きっと何かを変なものでも食べたんだ、きっとそうだ!


彼はいきなり叫んだ私に目を丸くしたが、クスリと笑った。


「イチョウ?」

「ここに来る前にイチョウの木を見つけたの」

「ああ、あれか」

「凄く立派な木だったから秋になったら凄いだろうなぁ」


私は桜と同じくらい紅葉を見るのも好きだ。
去年は小夜子を誘って紅葉狩りに行ったっけ。
老人みたいだって言われたけど、将棋好きの小夜子には言われたくないって言い返したんだ。


懐かしい思い出に自然と頬が緩む。



「好きなのか?」

「うんっ。大好きなの!」


満面の笑みで答えると、殿はクスリと笑った。


「ならイチョウが色づいたら見に行くか」

「え?」


まさかの発言に言葉を失った。
イチョウを見に行くってまさか二人で?