殿がまた後ろに寝転んで目を閉じたので私も彼の隣に腰を下ろす。
「どうだ、こちらの暮らしには慣れたか?」
「ちょっとはね。でもやっぱり着物は動きづらいし分からないことだらけ」
「そうか……」
今日小夜ちゃんの手伝いをしてちょっとはここの暮らしに慣れてたかな、と思っている。
人間の順応能力って凄いんだと感じた。
でも同時に不安になる。
このまま元の世界のことを忘れちゃうんじゃないか?もう帰れないんじゃないか?
ふと手を止めたときなどにそんなことを考えてしまう。
今だって……
ぎゅっと手を握りしめるとそこに大きな手が被さってきた。
隣を見ると殿は目を閉じたまま。
「大丈夫だ」
そう強く言った。
どのことをさして言ったかは分からない。
でも私を励まそうとして言ったのだということは分かった。
ドキッとするような笑顔を浮かべたと思ったら子供みたいに私をからかって遊んだり。
本当によく分からない人。
でも置かれた手の温度は冷たいけど私にはそれがとても温かいと感じた。
「そういえばさ」
それから数十分。
殿は黙ったままただ手を握り締めてくれていた。
「貴方は殿って呼ばれてるってことはここの当主ってことなのよね?」
「ん? ああ」
ただ、ふと浮かんだ素朴な疑問だった。
「当主なのに何でみんな貴方の居場所を知らないの?小姓の民部君さえハッキリとは知らなかったし」
そう聞いた瞬間、彼の表情が曇った。
「気になるか?」
「う、うん……」
あれ、聞いちゃいけない事だったのかな……?
心配になって私はドキドキしながら彼を覗き込んむ。
すると殿は何処か悲しそう笑顔を浮かべた。
