「大内……義長?」
呟いた瞬間、背中に冷たい圧迫感を感じた。
あっ……
気づくと私は押し倒されていた。
目の前の彼は氷のような冷たい目をしている。
その何の感情も読み取れない目に恐怖で体がすくんだ。
「何故お主が私の諱いみなを知っている?」
発せられた言葉は先程とは比べ物にならないほど低く冷たい。
「答えろ」
私は震える唇を必死に動かした。
「い、諱ってなんですか?」
「は……?」
彼はぽかんと口を開けて唖然と私を見つめる。
さっきまでの張り積めた空気はなくなっていた。
「お主何を言っているのだ?」
何を?と言われても、答えろって言われたから思ったこと言っただけなんだけど……
「諱を知らぬのか?」
いみな何て聞いたことがない。
彼の態度があんなに変わるんだから結構大切なことだったりするんだろうか。
「し、知らないです」
そういうと、彼は少し考えた顔をしてから私を引っ張り上げた。
「お主の村では諱を使わぬ風習でもあるのか?」
「村? 風習?」
私の住んでいたのは田舎じゃない。風習なんてものも教わったことなんて1度もない。
「私、村になんて住んでなかったわ」
「では何処の出身だ?」
「……東京」
「東京? それは何処の国だ?」
「日本に決まってるじゃない」
彼は眉を潜めて首をかしげた。
やっぱりここは私のいたところじゃないんだ。
彼の反応で改めて痛感する。
この人のせいでこんなところに来ちゃったのに……
