慌てて袖の先で涙を拭うと、

壱は少し離れて。

「俺だってさ。急にあんな風に避けられたら、へこむ」
「…うん、ごめんね」
「なんで避けてたの?」

「…怖かったの」
「怖いって…俺が?」
「…うん。」


「俺、怖がらせるようなことしたかな」

「違う…。あの男と…ちょっとかぶっちゃって」
「…アイツと?」

「壱も…。私のこと恨んでないかな、嫌ってないかなって…怖くて」


「な訳ねーじゃん!!」
「!!」
「そしたらこんな一緒にいねーし!…嫌いだったら避けられてこんなへこまねーし」

いつも真っ直ぐな壱の目が
大嫌いだった。

「…私のこと嫌いにならない…?」

「柴犬は忠実なんだよ」
「…そっか。そうだったね。」


思い出した。
私の大好きだった柴犬の名前。

『イチ』

大好きな、あなたからとったんだった。