柏木はワインをコーラで割って、

「はい、カリモーチョ」

「おぉきに」

「お前んとこのおやっさんに教わったんやで、これ」

そういえば駿の実家は、西陣の酒屋である。

「話戻るけど、おまえ東京の女だけは嫁にすなよ」

どうやら気を使っていたらしく、そこだけは小声になった。



秘書室の仕事は社長のスケジュールの管理と、無事にスケジュールが済んでもアフターケアというものが要るので、そこで例えば商談向けに必要な物資を買い揃えたり、ときには贈答品を調達しなければならない場合もある。

化粧品メーカーだけに大概は自社製品が贈答用となるが、商談用のサンプルともなると、ごく稀にながら、小瓶に化粧水を詰め替えるといったことまでしなくてはならない。

これらの作業のうち室長の駿の出番は、箱書きやのし書きを書くことであった。

三人のうち、毛筆の扱いに慣れていたのは駿だけで、

「室長、のし書きお願いします」

というと駿は筆ペンで書いてゆく。

酒屋でものし書きや一升瓶の桐箱の箱書きはやらされていたから、容易いことであった。