川の水が流れる音がする。ドプッ……ドプッ……。重たい水音、かなり大きな川だ。


暑い。熱風に髪がなびく。誰かが泣く声が聞こえる。石がぶつかる音がする。


目を開けると、昔に本で見た地獄があった。


「えっ?」


「着きました。……地獄です」


地獄で間違いないんだ……。
舟に乗って移動?それは……三途の川を渡るの!?


「三途の川を渡る?生きて帰って来れるのか?」


南天さんが苦々しい顔で言った。


「はい。向こうで待っている主さんが手配してくださいました。この札がある限りは生きて帰れます」


仄矢の人差し指と中指に挟まれていたのは、赤い筆で描かれたお札だった。一枚だけではない。


「あの橋を途中まで渡り、舟に乗ります。ちなみに、舟は客人用です」


昔乗った、白い船体が綺麗な汽船を思い出した。けど、首を横に振って掻き消す。今乗るのは船じゃなくて、舟だ。それに地獄だし、白はあり得ない。


私たちはボロボロになった木の橋を渡る。
歩くと軋む。落ちたらどうなるんだろう?私は泳げないから死んでしまうかもしれない。青は助けてくれるかな?


下を見ると、死んだ人を乗せた舟が進んで行く。漕ぐ人は哀しげな歌を歌う。
若い女の人がしくしくと泣いて、一緒に乗っていたおじいさん二人は、閻魔様はどんな方だろうと話していた。そして、がははと豪快に笑った。


舟を漕ぐ人は、色々な人を見てきたんだろう。若くして亡くなり、無念が残る人。天寿を全うして、人生を受け入れた人。


この橋は客人と死人をわける道だ。