「あら、お昼はもう少し後ですよ」


「はい。少し用事があるので、済ましておこうと思いまして」


作り笑顔で言った仄矢は、ミルフィさんを追い詰めていく。



「空操禁書ってご存じですか?」


「ええ。六十年前に世界の一つで起きた事件ですね。それがどうかしました?」


そんなに経っていたのか……と、微かな声が聞こえた。


「空操禁書って、悪いやつですよね」


「ええ。あの世界を混乱に陥れたわ」


「なら、その空操禁書に協力するあなたは冥府を治めるべき人ではありませんよねぇ?」


仄矢が不敵な笑みを浮かべる。


「何を仰るのですか!?私は冥府に認められたのですよ!そんなことをするはずが……」


冥府の目が正しければ、ミルフィさんを認めない。
ミルフィさんは正しく選ばれていない。


「ミルフィさんは、死者が集まるここを治められる人じゃない!あのサラダはなんのために作ったの!?何の罪もないのに飢えた人がいるかもしれない。その人にあげられなかったの!?」


生きるために罪を犯した人も見てきたはずだ。どうしても食べ切れないなら、冷蔵庫に保存という手もある。なのに作って捨てた。



「そう、そこまで見てたの……」


ミルフィさんの髪がゆらゆら動く。


「ふふっ……きゃははっ!」


ミルフィさんの目が紅く光る。
目を見開き、口を歪めたミルフィさんから、禍々しい空気が漂う。


「そうだ!空操禁書に協力した!でも、私がここにいたっていいんだよ……お前たちを消してしまえば解決するんだ!」


ミルフィさんが本性を現した。黒い羽と服になる。
次の瞬間、強い衝撃波に吹き飛ばされそうになった。