「判官さん」


しゃくを持って構えたまま、岩にのっていた。
仄矢が呼ぶと、顔だけこっちに向けた。

「あら、さっきの……取材はどうでした?」


「いい写真が撮れました。特に林の中が綺麗で、たくさん撮りましたよ」


「林……入ったのですか?」


「はい……あの、入ってはいけない場所でしたか?」


「林は、ちょっと危ないの。猛獣がいるという噂が流れてるから……」


仄矢の目をじっと見て言った。


「そうだったんですか……。無事に帰ってこれてよかった。もうあそこには行きません」


「本当は案内とかしたいんだけど、ハデス様や閻魔様がいないから忙しいの」


「えっ、ハデス様、まだ戻られていないのですか!?」


「ええ。会議が長引いているのかしら……。だから、代わりにミルフィさんが今の冥府を治めているのです。私もその影響で、死者を裁く役目に就くことに……」


仄矢は、ありがとうございます、とお辞儀してから速足で去っていく。
私たちが追い付いてすぐ、絶対に空操禁書が関わっていると言った。


「会議はもうとっくに終わっています。きっと、帰りに何かが起きたのです。氷裁智さんにも聞きにいきましょう!」


氷裁智さんがどこにいるかわからない。仄矢はわかるの!?
走り出した仄矢を追いかけると、死者を裁いている氷裁智さんのところにきた。


「氷裁智さん、少々お時間いただけますでしょうか?」


「ええ。この人が終われば休憩時間に入るから、待っていてください」


横目で見た後、痩せた男の人を問い詰める。
判決を下した後、立ち上がる。


「で、用件は何ですか?」


「会議の後、お戻りになられていない方がいて、代わりにミルフィさんが冥府を治めていると聞きました。その事について何か知っていることは……」


「あなた、実は天使でしょう?まさか天界にもこのことが伝わってないの?」


氷裁智さんは仄矢の言葉を遮った。
天使だと気付かれてしまったけど、どうするんだろう?私は氷裁智さんが協力者の可能性もあるし、言わない方がいいと思った。


「……はい。冥府にいる、空操禁書の協力者を見つけ出し、魔力源を絶てと命じられています。まだお戻りになられていないという情報は、天界に届いていません」


「このことを知らせるため、冥府は遣いを送った。……まだ着いていないということか。途中の道に何かあるな」


天界と冥府の間に空操禁書がいる。
冥府を治めるくらいの力を持っていても止めるくらいだから、とても強力なんだろう。
私はぞっとした。魔力源を壊せば弱体化するかな?


「空操禁書の協力者か。怪しい人物がいます。あなたは気付いていらっしゃるかもしれませんが」


しゃくで口が隠れているからか、目に注目してしまう。
氷裁智さんったら視線で仄矢を刺してしまいそうだ。


「はい、あの人でしょう。ですが決定的な証拠はまだ見つかっていません。引き続き捜査します」


「そう。明日の午前九時に、また話し合いましょう」


服の裾を揺らし、氷裁智さんは去っていった。


「みなさん疲れたでしょう。戻って休みましょうか」


疲れたので返事することもなく、とぼとぼと歩く。
早く部屋に戻って足を休めたい。