まだ何かあるのかと振り返ると
「ねえ、メイドごっこなんだからメイド服着てよ」
「はい?」
「メイド服」
「失礼ですが主様は見えないでしょう?」
「魔法の時代だよ?身体的機能が停止していたとしても魔力で視力は作れる」
「左様ですか」
「だからメイド服着て。敬語も淡々としすぎてるからもっと柔らかく」
「かしこまりました」
「あ、今面倒臭いとか思ったでしょ?ふふっ。杞憂の無表情が崩れる瞬間を早く見たいよ」
ど変態が
そう、僕の主人はとてつもなく変わり者だ
これもいつもの遊びのひとつ
いきなりメイドごっこがしたいと、すっとぼけたことを言い出した主人に付き合わされているのが現状の僕である
それもこれも召喚されたのが運の尽きだった
この僕が人間に従うなどありえない
召喚される事がまず稀だったし、召喚されたとしても喰うていた
けれど目の前の人間は違ったのだ
「はあー…」
暗闇の廊下を歩き抜けてキッチンに急ぎながら召喚された忌々しい日を思い出して深い溜息が溢れる
そう、全ての始まりはあの日からだった…
