主様は奇麗な人だと思う

いや、訂正しよう

不健康極まり無くいつ死んでも可笑しくないと思う

白い髪はサラリと柔らかで右側だけ肩につくほど長く、左側は肩にもつかない短さで真紅の結晶のピアスが揺れ光る

あまりにも白すぎる肌は病的なほど

常に両目を隠すように包帯を巻いているにも関わらず何もかも見えているように動いて話す

現に今も、僕が部屋の入り口の脇に寄ったというのに寸分も違わないでその距離感を掴み、触れてくる

本当に見えていないのかと問いたくなるほどだ

しかもこの暗闇

夜目の効く僕であるからこそ主様を見て確認できるが、僕でも視野に入れないと“確認できない人間”なのである

つまり気配とか存在感とか…生きとし生けるものなら少しは持っているはずの存在を自ら示す機能が主様には無いのである

いや、わざと無くしているのかもしれないけれど、召喚されてから今まで自ら存在を示す行為を主様はしたことが無い

真っ暗闇のこの洋館を壁にぶつかることなく歩き抜けていく主人の背を見つめ、一定の距離を置いて着いていく

ここに明かりが灯ることは先ず無い

だからこそ周りの住人は空き家だと思っている人が大半である

泥棒が侵入することなんてよくあるし、子供たちが探検だと称して入ってくることもある

どれだけ人の気配の無い建物なのかと思うほど、ここに生存物の残留思念とか生活感とかいうものは皆無なのだ


「杞憂」