「お前は目が見えているのか?」


滅多に自分から人間に質問なんてしないのに、何百年ぶりかと振り返っても思い出せないくらい久しぶりに好奇心というものが疼いた

僕の問いかけに人間はゆるりと口元に弧を描き、僕の目の前で立ち止まる

ゆったりと着ている着物はだらしなく胸元が開いていた

その体を見て男なのかと認識する

人間はどれも同じに見えて仕方ない

前に誰かが胸の膨らみで見分けるのがわかりやすいなんてことを言っていて、それだけが頭にあったのだ


「俺は盲目だ。生まれてこのかた、目に光を通せたことはない」


きっぱりと答えてくれた人間の男には「…へえ」と抑揚のない声を響かせていた

だから僕の姿を見ても恐れ戦かないのか

普通であるならゴクリと悲鳴を飲み込み、目を丸くさせて冷や汗でもかくものを

いつもわざわざ醜い姿で人間の前に立つ楽しみのひとつであるのに残念だ


「…それにしては見えているように歩くんだね」


ふと、先ほど僕を観察するように歩いていたことを指摘すれば


「ああ、お前は馬鹿なんだね」


クックッと喉奥を震わせて笑われた

自分が人間を見下すことはあっても人間に見下されたことはない

だからこそ目の前の人間の言動はイラついた

グルルッと無意識に自分の魔力を纏っていた程には