努力に恋をする




 遠足で蓮と山見が付き合った。


 お似合いだとは思ってたけど
 まさか付き合うとは思わなかった。


 遠足から帰ってくると
 

 『あ、、さお。
  、、今日蓮と帰ってもいい?』


 そう山見が沙織ちゃんに言ってるのが
 聞こえてくる。

 一瞬寂しそうな顔をした。

 『全然いいよ!!
  柏木くん、優の事よろしくね!』

 『まかせて!沙織ちゃん!!』

 『うん!じゃ、また明日!
  明日話聞かせてね、優〜♪』


 そう言葉を交わした後


 『さてと、帰るか。』


 そう1人で呟いて
 1人で家の方向に向く。

 いや、待てや。

 俺の存在完全に忘れとるやろ。


 さすがに女の子を1人で
 家に帰らす程非情なやつじゃねぇ。
 ましてや、好きなやつを。


 『送る。』

 『え?』

 『いや、だから、送る。』

 『いいよいいよ!帰れるし!!』

 『いや、心配だから。』

 『大丈夫だって。』

 『送りたいから、送らして。』

 『え、、。』

 『いくで。』

 『え、、あ、待って!!』


 そう言って先に歩き出す。

 後ろからパタパタと追いかけてくる。


 『ねぇ、1人で帰れるってば。』

 『しつこい。』


 半強制的に送る。

 15分程歩く。

 何を話していいのかわからなかった。

 怒ってるかもしれない。

 ずっと、、無言。
 でも居心地が悪くはなかった。

 家に着いた。


 『、、送ってくれて、ありがとう。』

 『うん。送らしてくれて、ありがとう。』

 『ぷっ。何それ。』

 『全然喋らんから怒ってると思ってた。』

 『送って貰って怒るやつなんか
  居たらびっくりする。』

 『ははっ。確かに。』



 良かった。怒ってなかった。



 他愛ない会話をして
 そろそろまたなと言おうとした時


 ーガチャー


 『あら〜〜♪
  沙織を送ってくださったん〜〜?♪』


 玄関の扉が開いて
 沙織ちゃんによく似た綺麗な人が
 顔を覗かせながら声をかけてくる。


 『あ、初めまして。
  沙織さんと同じクラスメイトの
  尾方圭介です。』


 急な登場すぎて
 正直心臓バクバクやったけど
 挨拶をする。


 『良かったら圭介くん上がって〜♪』


 『『え゛!?』』


 2人の声が同時にあがる。

 いや、まさかすぎて
 初めましてやのに
 そんな事関係なさすぎる、神対応。


 『ちょ、お母さん!!!
  そんな事急に言ったら迷惑やん!』

 『あら、迷惑やった?圭介くん、、。』


 沙織ちゃんのお母さんが
 少し泣きそうな声で言う。


 俺は焦って


 『あ、いえ、全然時間は大丈夫です。』

 と、答えた。

 すると、

 『あらそう!じゃ上がって上がって♪』

 と、言われ、腕を引かれ
 家にあがることになってしまった。


 『え、ちょ、ちょっと、、!!』


  後ろで沙織ちゃんが声をあげている。
 一方お母さんは聞こえないフリ。


 あー。俺どうしたらいいんや。


 とりあえず逃げれそうにない。


 30分ぐらいお邪魔したら帰ろう。


 そう決めて、玄関で靴を脱ぐ。
 靴を揃え、改めて挨拶をする。

 『お邪魔します!』

 『は〜い♪どうぞ〜〜♪』


 そしてリビングに通される。


 『それでね!!沙織ったら
  ブランコで大泣きして!!
  もう一生分の涙流すんじゃないか
  ってぐらい泣いてたのよ!!』


 さっきからずっと喋り続けている。
 沙織ちゃんのお母さん。
 ずっと沙織ちゃんの話。
 本当に本当に大好きなんだと
 伝わってくる。


 一瞬リビングを通って
 沙織ちゃんは自分の部屋に向かう。


 沙織ちゃんが行ったのを確認して
 沙織ちゃんのお母さんが
 真剣な顔で話を始める。


 『、、圭介くんは沙織の彼氏?♪』


 声のトーンなどはさっきと同じ。
 でも冗談で聞いているんじゃない。


 『いえ、彼氏ではないです。』


 『あら、、、そうなの。
  私早とちりしちゃったみたいね。
  ごめんなさい。』

 『いえ。
  でももし沙織さんが良ければ
  彼氏になりたいと思っています。』


 こんな事を言うつもりはなかった。
 でもあまりに真剣な表情で
 話をしている
 沙織ちゃんのお母さんを見ていると
 決意表明をしてしまった。


 『沙織、、難しいわよ。』

 『難しい、、とは
  どういう意味なんですか?』

 『元彼の話、聞いた事あるかしら?』

 『いえ、ないです。
  何度か話に上がったんですけど
  その度に言いにくそうにするので
  沙織さんが話たくなるまで
  俺は待つ事にしました。』

 『そう。』

 そう呟く様に顔を俯かせたと思うと
 フワッと顔をあげ、少し潤んだ瞳と
 安心したかの様な微笑みを俺に向けた。

 『私の口からは言えないけど
  圭介くんが沙織と出会ってくれて
  本当に嬉しいわ。
  もし、もし圭介くんが良ければ
  沙織の支えになってあげて欲しい。』


 『こんな俺でも支えになるなら
  全力で沙織さんの力になります。』

 『ありがとう。圭介くん。』

 『いえ。こちらこそ
  ありがとうございます。』


 廊下から沙織ちゃんの足音が
 聞こえてくる。

 沙織ちゃんのお母さんは
 少し潤んだ瞳を慌てて拭う。



 『ん?何の話してたん?』

 『沙織の武勇伝♪ふふふ♪』

 『い、いらん事言うてへん!??』

 『大丈夫、沙織ちゃん。
  おばけが怖くて夜中のトイレは
  扉開けたままするなんて
  聞いてない。』

 『ごぉぉおらぁぁぁああ!!!!
  お母さん!!!!
  何言ってくれてんの!!!!』

 『てへっ♪口滑っちゃった♪』


 また明るいお母さんに戻っている。
 強いな。母親は。

 お母さんと目が合うと
 いたずらっ子の様に
 口元に人差し指を立てて
 さっきの話は内緒ね!っと
 アピールしてくる。

 俺は笑顔で頷き返した。




 それから晩御飯をみんなで食べて
 沙織ちゃんの武勇伝やら
 遠足の話やら色んな話をした。
 楽しすぎてつい時間を忘れていた。



 『尾方くん!時間!!』

 『うおっ!本当だ!やべ!!』

 『あら、そんな大丈夫よ〜♪
  泊まって行きなさい♪
  部屋なら1つ空いてるし♪』

 『いや、それはさすがに悪いんで。』


 さすがに好きなやつの家に
 いきなり泊まれへん。


 『尾方くん、泊まっていいよ。
  お母さん一度言うと聞かないから。
  お気に入りになったみたいやし。
  もう逃げれないと思う。』

 『、、え。』


 まさか沙織ちゃんがそんな事
 言ってくれるとは思わなかった。
 特に理由がなくても、嬉しい。


 『ま、無理にとは言わないけど。』

 『いや、なんか
  ここまで良くしてくれるのは
  ありがたいし、楽しいから
  もう少しここに居たい。
  お言葉に甘えさせていただきます。』


 『いや〜〜♪楽しいだって♪嬉しい♪』


 そうして俺は1泊する事になった。


 そこからまた1時間程話をして
 明日も学校ってことでおひらきにして
 お風呂入って寝ることになった。


 風呂あがり、部屋の前。


 『今日はごめんね。』

 『いや、俺こそ。押しかけてごめん。』

 『完全にお母さん
  暴走しっぱなしやったな〜〜。』

 『面白いし、明るいし
  頼りになるお母さんやな。』

 『どこが〜〜。』

 『俺はそう思う。』

 『ありがとう。嬉しい。』


 そう言って、沙織ちゃんが
 少し照れながら笑う。


 あぁ。やばい。可愛いすぎる。
 
 すっぴんでお風呂あがりで
 少し火照ってる頬。
 タオルで拭いただけの
 濡れている髪を片方によせている。
 そのせいで白くて綺麗な首筋が
 あらわになっている。

 こんなんで理性なんか保てるか!!


 部屋に入る直前に沙織ちゃんに
 お願いをしてみる。

 『俺、朝弱いから。起こしに来て。』

 『え?、、あ、わかった。』


 返事だけ聞いて俺は部屋に入る。


 『あー。ずりぃ。』


 知らない間にベタ惚れしてる。
 こんな気持ち、俺だけだと思うと
 ちょっと、、悔しい。





 



 『、、、ぁーたーくーん。』


 ん、、、。あ、沙織ちゃんか。


 『ふぅ。』


  一歩また一歩と
 近づいてくる気配がある。


 俺は壁を向いたまま狸寝入り。

 さて。どうやって
 起こしてくれるかな。


 『尾方くーん。起きてー。』


 『、、、、、』


 『、、、圭介くん。起きて。もう朝。』



 こいつ。本当に、無自覚なんか?

 名前、、、このタイミングで
 呼ばれると俺も呼びたくなる。



 ーギュッー


 腕が引っ張って、沙織を抱きしめる。


 『おはよ。沙織。』


 我慢出来なくなって名前を呼んだ。


 『、、お、おは、、おはよ。』


 そう言っている沙織が可愛いすぎて
 余計にいじめたくなる。


 『お、、、尾方くん?』

 『、、圭介くん、じゃないんや。』

 『え、、!?』

 『ざーんねん。』

 『えぇ!?!?』


 そして沙織に絡めていた腕を解く。


 『沙織〜圭介くん〜♪
  朝ごはん出来たわよ〜〜♪』

 『は、はーーーい!!!!
  、、、先に行くから!』

 『ん。』


 ーガチャ バタンッー




 可愛いすぎる。
 あいつこれで俺の事
 なんとも思ってないってなると
 いよいよバケモンだな。


 『はぁ。行くか。』


 そして一緒に朝ごはん食べて
 一緒に家を出る。


 『いってきます!!』

 『いってらっしゃーーーい♪
  圭介くん!また来てね〜♪』

 『はい!ありがとうございます!
  お邪魔しました!!』


 並んで登校。

 朝の出来事があってから
 沙織は目も合わせようとしない。


 『沙織、怒ってる?』

 『え!?なんで?』

 『いや、朝の事。』

 『別に怒ってへんよ。
  びっくりしたけど。』

 『そっか。良かった♪』


 そうゆうと一瞬びっくりした顔をして
 その後ゆっくりと微笑む。


 その微笑みにはどこか寂しさがあって
 俺はどうにかしてやりたいと思った。



 多分今沙織は元彼の事を考えている。



 だから俺はそっとしておく。
 何も言わずに見守る。


 なんかあったら
 いつでも助けれるように。
 その為に目だけは離さずに。


 沙織は、俺が支える。